以下のテキストには”ネタバレ”を含んでいます。閲覧にはご注意ください。
ここから後編です。
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それでも愛は勝つ
その頃、子供たちは焼鳥屋を襲ってました。棚をひっくり返したりスイカを叩き割ってむさぼり食ったり、好き放題に暴れてます。焼鳥屋の大将はどう対処していいのかわからず、「ナスビが焼けてるよ」とか「スイカには塩かけて食べなきゃ」とか、わけわからんことを口走ったりしてるし。焼鳥屋が鶏ではなくナスビを焼いてるのは鳥インフルエンザの影響……ではなく、『TVブロス』に載ってた焼鳥屋の大将役・古田新太さんのインタビューによると、助監督が鶏肉を用意するのん忘れてたからだそーです(笑)
子供たちへの対処の仕方がわからないのは、駆けつけた新市さんも同じ。今まで怪人と化したオヤジたちを次々と倒してきた新市さんも、子供相手じゃ手が出せません。しかも、その子供たちの中には新市さんの息子の一輝クンまで混ざっているではありませんか。
どーしていいのかわからない新市さん、一輝クンを小脇に抱えてその場を走り去り、人気のない墓地で組み伏せます。が、それ以上なにもできない。こんときの新市さんの何とも言えない表情が、なんちゅーか、素晴らしい(このとき新市さんはマスクをハズし、一輝クンに素顔を晒しています)。
この映画は全編通じて哀川さんの「いい表情」オンパレードな映画なのですが、特に息子さんと向き合うときの表情がタマラナクいいんですよ。これはやはり、実生活では5人のお子さんの父親だからこそ魅せられる表情なんでしょーね。哀川さんのファンの方って、男性の場合は怒ったときとかの”キれた表情”にググっとくる人が多くて、女性の場合にはときおり見せるこのよーな”やさしい表情”に惹かれる人が多そうな気がします。わたしなんかは男か女かハッキリしないので、どっちの哀川さんも好きなんですけど(笑)
そんな哀川さん=新市さんの表情に負けたのか、一輝クンに寄生していた宇宙生物は身体を離れ、逃げだしちゃったのです。
新市さんの”愛”が勝利した瞬間でした。
哀しき小市民
新市さんは頭に傷を負った一輝クンを病院へ連れていきますが、ここもまたパニック状態に陥ってました。宇宙生命に寄生されてた妊婦が全身緑色の赤ちゃんを産んだのです。
その病院で看護婦さんしていて、赤ちゃんの出産にも立ち会っていた浅野さんのお母さんは、新市さんたちを自分の家に連れて行き一輝クンの傷の手当てをしてあげます。そして、一輝クンだけでなく、連日の戦いで疲れきった新市さんの心をも癒してくれるのです。
浅野さんのお父さんは数年前に投身自殺で亡くなっており、浅野さんはそれが原因で歩けなくなったのだそうです。浅野さんのお母さんは看護婦だけに傷の手当てはお手の物、女手一つで身体の不自由な息子を育ててるだけあって精神も強く、オマケにやさしいときたモンだ。一緒に暮らしていてもアカの他人状態の奥さんより、そんな浅野さんのお母さんに想いを寄せるようになるのが人情ってモンです。
しかし、そこは小市民な新市さん。浅野さんのお母さんを押し倒すことはモトヨリ、手すら握れない純情ぶり。できることといえば、せいぜい夢の中にご登場願うぐらいしかない。ってわけで、この夢ン中に出てくる浅野さんのお母さん、コレが……
スんゴイんです!
白と黒の天使
『仮面ライダー』の古来より、等身大変身ヒーロー特撮ドラマの決戦場は石切場と相場が決まっています。その石切場でカニ男率いる悪の軍団を迎え撃つ新市さん=ゼブラーマン。ちなみにカニ男は柄本さんヴァージョンではなく、テレビ版のバグピオンを見事なぐらいそっくりに再現してます。
また、アクション・シーンの凄絶さも踏襲していて、巨大化したバグピオンのハサミで、ゼブラーマンは右腕を切り取られちゃいます。ここでゼブラーマン、苦しみながらも背中からバズーカ砲を……出したりしません(笑) なぜなら、敵は竹内力じゃないからです(爆) ゼブラーマンは最後の力を振り絞って、叫びます。
「ゼブラナース!」
その声に応えるかのように、石切場に荘厳な混声コーラスが響き渡り、陽炎の中からゼブラナースが姿を現します。
敵の戦闘員を蹴散らしながらコッチへ向かって歩いてくるゼブラナース。コレがもゥ、色っぽいちゅーか、エロっぽいちゅーか……
マスクから覗くふっくらした口もと。
ボンテージちっくなお衣装から覗くふっくらしすぎの胸もと。
ハッキリ言って、反則です、コレは。
わたくし、すどうみやこは断言します。
このゼブラナースを観るだけで、1800円(映画料金)払う価値はジューブンあると!
ココだけの話、鈴木京香さんに萌えるなんて、『ゴジラvsビオランテ』ンときの自衛官の制服コス以来、十数年ぶりのことでしたもん。
そんなゼブラナースの看護パワーでゼブラーマンの右腕は再生し、宿敵バグピオンを打ち破ります。戦い終わって日が暮れて、浅野さんを挟んで食卓につくゼブラーマンとゼブラナース。……コレが新市さんの、望むべくもない夢なのでした。
脚本家は誰だ
教頭先生が体育館で謎の死を遂げたことを知った新市さんは、遺品の中に自分宛の封筒があるのを見つけます。その中には、「Anything Goes」と書かれた紙切れと、教頭先生のアパートの鍵が入ってました。
教頭先生のアパートに向かった新市さんは、そこで防衛庁の及川とバッタリ。及川たちが基地にしていたのは、教頭先生のふたつ隣の部屋だったのです。教頭先生の部屋に入った二人が見たモノは……
本棚にズラーーーっと並んだ『ムー』と(笑)、テレビ版『ゼブラーマン』のシナリオでした。しかも、放送された第7話までのシナリオ(製本されてる)だけでなく、製作されなかった第8話以降のシナリオ(製本されていない手書きの生原稿)まで揃っていたのです。これって、つまり……
そう、教頭先生は『ゼブラーマン』の脚本家なのでした。
例のファンサイトに載ってるスタッフ・リストにはなぜか脚本の項目だけが載っていません。これは、そのサイトの管理人さんがミスってるわけではなく、本当に脚本家が誰なのかわからないからなのです。『ゼブラーマン』の現存する数少ない資料のどこにも、脚本家の名前は見あたらないんだそーです。わたしはこのテキストを書くに当たって、テレビドラマや特撮モノのデータベース系サイトを片っ端から当たってみましたが、どのサイトで検索しても『ゼブラーマン』の脚本家の名前は出てきませんでした。ってゆーか、『ゼブラーマン』って項目じたい出てこないんですから調べようがありません(苦笑)
たぶんクドカンは、この「脚本家が不明」ってところに目をつけて、教頭先生のキャラクターを作ったんでしょう。なかなか芸の細かいヤツですね、クドカンって(笑)
漢は旅立つ
新市さんは教頭先生の部屋にあった『ムー』の記事の中から、「1978年頃、八千代地区に空飛ぶ円盤が墜落した」って記事を見つけます。そして、その記事と教頭先生が残したシナリオから、教頭先生も実は宇宙人だったことを知ります。宇宙生命たちは地球を侵略するため飛来しましたが、教頭先生が起こしたクーデターによって円盤は墜落、その後、教頭先生は彼らを体育館の地下に封印していたのです(正確には封印した場所に体育館が建ったんですが)。
更に新市さんは、この一連の事態がシナリオどおりに進行していることに気づきます。カニ男も車椅子の少年も緑色の赤ちゃんも、それに小学校の教師がヒーローに変身することも、すべてシナリオに書かれていたことなのです。そして、製作されなかった最終回のシナリオには、「ゼブラーマンは宇宙生物に破れ、地球は侵略される」なんてことが書かれていたのです。
ゼブラーマンが負ける理由は……空を飛べなかったから。
新市さんは空を飛ぶ特訓のため、山にこもることを決意します。家を出る際、新市さんは一輝クンに「バイクを買う」と告げます。「ヒーローにはバイクが必要だもんな」
そして、こう続けるのです。「お母さんとお姉ちゃん、頼んだぞ」
去ろうとする新市さんに、それまでずっと黙っていた一輝クンが初めて口を開きます。
「がんばって」
新市さんにとって、この一言は他のどんなモノより強い力を与えてくれるモノだったでしょう。その最強のアイテムを携えて、新市さんは旅立ったのです。真のゼブラーマンになるために。
エイリアン殲滅作戦
新市さんは山の中で特訓に明け暮れてました。でも……人がそう簡単に空を飛べるようになるハズもありません。しかし、新市さんは、(心情的には)一輝クンや家族への思い、教頭先生が残した意志、(物理的には)浅野さんのお母さんや及川の応援、などを糧に特訓を続けました。
その頃、浅野さんの家では、浅野さんが消えちゃってました。浅野さんはどうやらシナリオの最終回を読んで、ひとりで体育館に行っちゃったようなのです。浅野さんのお母さんも体育館めざしてチャリンコを走らせますが、防衛庁が道路を封鎖してるので足止め食らっちゃいます。防衛庁は、誰が宇宙生命に寄生されているか判別できないので、めんどくさいから八千代地区一帯を中性子爆弾(MADE IN USA)で焼きつくしちゃえって、なんか『バタリアン』みたいなどえらい計画を決行しようとしてたのです。
「通せ」、「通せない」で揉みあう浅野さんのお母さんと防衛庁の下っぱ。と、そこへ、バイクの爆音が! 目を凝らすと……白と黒のシマシマ模様のバイクが近づいてきます。封鎖作戦の指揮を執っていた及川は、部下たちに「秘密兵器だ」と言って道を開けさせます。
愛車グレービー号(テレビ版でゼブラーマンが乗ってたバイクの名前)を駆って体育館に乗りつけた新市さん=ゼブラーマン。特訓のおかげでコスチュームはボロボロですが、その瞳は闘志の炎で燃えていました。
そして、ついに……
宇宙生命たちとの最後の戦いの火蓋が切って落とされたのです。
翔べ! ゼブラーマン
ワラワラ寄ってくる宇宙生命たちを次々に粉砕しながら、壇上で捕らえられてる浅野さんの方に近づこうとする新市さん。しかし宇宙生命たちは元々ブヨブヨなので、蹴られようが千切られようが平気みたいで、それどころか合体(つうか、吸収合併って感じですが)なんかしちゃって巨大化したり。いいかげん疲れてハァハァゼェゼェ状態の新市さん、数体の巨大ブヨブヨにボコられて、ついに力尽きます。
大きいの小さいの取り混ぜた数百数千のブヨブヨに取り囲まれた新市さん、いよいよ最後かと思われたそのとき! マスクの”Z”マークがピカっと光ったかと思うと……
捕らえられていた浅野さんの目に映ったのは、跳び箱の上にスクっと立つ、完全体に変異したゼブラーマンの雄姿でした。ゼブラーマンはブヨブヨたちを蹴散らし、救いだした浅野さんを小脇に抱え体育館を脱出。ブヨブヨはゼブラーマンの後を追いながら、楽天もビックリするぐらいの勢いで吸収合併を繰り返し、ついに小学校よりはるかに大きい超々巨大ブヨブヨに変貌します。
小学校の屋上へ逃げこんだゼブラーマンに浅野さんは言います。「飛ぶんだ、ゼブラーマン」
シナリオを読んだ浅野さんは、ゼブラーマンが空を飛ばない限りブヨブヨに勝てないことを知ってるのです。いや、シナリオを読んでなかったとしても浅野さんは同じことを言ってたでしょう。現に、ゼブラーマンの戦いを校庭で見守る一輝クンは、シナリオのことなんかまったく知らないのに、屋上に向かって「飛べ!」と叫んでます。子供たちは願っているのです、ゼブラーマンが飛ぶことを。
躊躇するゼブラーマンの前で、浅野さんは屋上の手摺りにつかまり、必死に立ち上がろうとします。父親の自殺を目の当たりにしたショックで歩けなくなった少年が、手摺りにつかまりながらも自分の力で立ったのです。そして浅野さん、ニッコリ笑って、こう言います。
「今度はゼブラーマンの番だよ」
Anything Goes
哀川さんは、この映画でのすべてのアクションを自分でこなしたと言います。そのほとんどのシーンで哀川さんはマスクを被ってるわけだから、スタントマン使い放題なハズなのにも関わらず。哀川さん、初日の撮影だけで体重が2キロも落ちたそうです。メイキングDVDでは、脚を引きずりながらアクションシーンに挑む哀川さんの痛々しい姿を確認できます。
この映画のテーマは……Anything Goes
教頭先生が新市さん宛の遺書の中に書き残していた言葉です。
信じれば、夢は叶う
しかし、ただヤミクモに信じてさえいれば夢が叶うわけでは決してありません。信じるからこそ、その夢に向けてひた走れる。ひた走った結果として夢が叶うのです。
最後の対決はブヨブヨがCGで描かれているため、昔ながらの特撮ファンとしては正直モノタリナイ部分もあります。しかし、浅野さんを救うために空を飛び、シマウマに変身したとしても、「んなアホな」とツッコミ入れることはできません。新市さん=哀川さんが走りに走り、その結果、ホントにゼブラーマンと同化したことを、わたしたちは知っているからです。
そんなわたしたちの気持ちは、器物破損の罪状で逮捕された新市さんが、待ち受けていた市民たちから受けるゼブラーマン・コールに結実していると思います。そして、映画のラストを一輝クンのアップで締めくくるところに、新市さん=哀川さん、それに三池監督をはじめとするこの映画の作り手たちの思いが込められているように感じます。
特撮ファンを続けていてよかった、三池さんや哀川さんの映画を観続けていてよかった……
エンディングに流れる『日曜日よりの使者』を聴きながら、わたしはそう思いました。