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以下のテキストには”ネタバレ”を含んでいます。閲覧にはご注意ください。

座頭市と用心棒の画像です。

ここから後編です。

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かわいい奴ら

弥助の誘いを断った市は図々しくも番屋で寝泊まりすることに決めこみます。八州廻りの役人・脇屋(神山繁)が今日明日にもこの里にやってくるのでヤキモキしてる番太の藤三のことなんかお構いなしに。イヤイヤながらも市におさんどんしてあげる藤三を、なんか健気でめっちゃかわいいと感じたのはわたしだけでしょうか(笑)

かわいいといえば、もうひとり、市に仕込み杖を教えてくれと頼むものの「まっとうに働け」と逆に説教される余吾もまたかわいい奴です。余吾も梅乃に心惹かれていて、「誰も気づいちゃないけど俺は梅乃屋の女将さんを守ってるんだ」そうです。

余吾役の寺田農に、後に実相寺昭雄作品で爆発する”濃ゆさ”は備わっておらず、この頃はまださわやかな好青年だったのですね(笑) 藤三役の草野大悟はこの頃から既にジューブン”濃ゆい”ですが(爆)

そういえば、寺田さんも草野さんも、それに後から出てくる九頭竜役の岸田森さんも、喜八組であると同時に、実相寺作品の常連さんでもありました。岸田さんと草野さんは残念ながら物故されましたが、寺田さんにはまだまだ元気なお姿を見せ続けていただきたいものです。

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その男の名は、九頭竜

江戸にいる三右衛門は蓮華沢の里に一人の男を送り込みます。カツシンと三船がマトモに斬り合えない部分をカバーするのが、この男―九頭竜です。”九頭竜”とは二連式の短筒のことで、ソレを操ることから彼もまた九頭竜と呼ばれているのです。演じるは岸田森。

『座頭市と用心棒』は特撮ファンの間でよく時代劇版『キングコング対ゴジラ』と例えられますが、九頭竜の登場で時代劇版『三大怪獣・地球最大の決戦』へとパワーアップします。市と佐々がそれぞれゴジラとラドンで、両雄の間に挟まれる梅乃がモスラ。そして、梅乃を傷つけ佐々と対決する九頭竜がキングギドラ。この映画における九頭竜の位置づけはそれほど高いものです……わたしの中では。だって、カッコよすぎるんですもの、岸田さんったら。

岸田さんの出演作はずいぶん見ましたが、カッコよさでは間違いなくこの映画がナンバーワンです。伊福部先生が、大筋から見れば脇役にしか過ぎない九頭竜にライトモチーフを与えているのも、そのへんを踏まえてのことなんでしょう。九頭竜はとにかくもう人を殺しまくります。しかも、顔色ひとつ変えずに。あ、顔色は元々やたら白くって血色悪いんですけどね(笑)

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最強タッグ、誕生

小仏一家は烏帽子屋の蔵に火をつけ燃やしちゃいますが、それでも金は出てこない。そこで用心棒は狙いを八州廻りに切り替えます。江戸とその周辺を行き来する八州廻りなら、金の運び屋としてうってつけと考えたわけです。

里に入った八州廻りの一行はまず番屋へ行き、脇屋は藤三に「大目付が乗り出してくるかもしれんから逃げろ」と告げます。どうやら、用心棒の考えは図星だったようで。脇屋はそれから烏帽子屋に顔を出したあと、逃げるように里を離れようとします。それを待ち受けている用心棒と小仏一家。と、そこへ九頭竜が現れ、脇屋一行をアっと言う間に皆殺し

そのあまりの手際の良さに震えあがる小仏一家の連中を去らせ、用心棒はひとりで九頭竜の前に姿を見せます。ここでの二人の会話から、九頭竜の正体が金の横流し事件を探る公儀隠密・跡部九内であり、先にこの里に潜入している隠密からの連絡が無いため使わされたことがわかります。そのもうひとりの隠密こそ、他ならぬ用心棒―佐々大作であることも。

九頭竜が去った後、二人の会話を盗み聞きしていた市が姿を見せ、佐々は「俺と組まないか」と持ちかけます。「俺の腕とおめェの勘が組みゃァ、でっけェ仕事ができるぜ」

市は、隠密となら組まないが”ワルワル”となら組むと答え、かくして、カツシンと三船という日本映画史上に残る最強タッグが誕生したのです。

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最強タッグ、解散

市と佐々は、まず藤三を締め上げようと番所に押しかけますが、時すでに遅し、藤三は九頭竜に殺されたあとでした。主なき番所でお茶しながら、ふたりは次の方策を練ります。このとき佐々は、十両五人扶持じゃ満足に茶も飲めなかったと市に告ります。そのために隠密になったのだと。「人がウナギの蒲焼きを食ってるときに俺はその串を削っておった」

市は烏帽子屋の用心棒になることにし、小仏側の佐々と共に双方を内部から煽って、正面から激突させることを画策します。「両方から火を付けて潰しっこさせりゃァ、あとは何が残りましょうかね」

さっそく烏帽子屋に出向いた市は、前金としてせしめた二百両を佐々から預かったと、梅乃に渡します。「これで梅乃さんは佐々の旦那とサッサと……」と市の親父ギャグが炸裂。さ、寒い……(苦笑) こりゃまたマズいシャレで、おほほほほ……と笑ってごまかす市ですが、この寒さはどうしょうもありません(爆)

梅乃は二百両を弥助に返し、これで梅乃の借金は回り回って無くなったわけですが、ソレを佐々は気に入らない。市が簡単に二百両作ったことも気に入らなきゃ、ソレを自分からだと梅乃にくれてやったのも気に入らない。

「もうアイツとは組まねェ!」

かくして、日本映画史上に残る最強タッグはアっというまに解散したのでした(笑)

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アラカンの存在感

烏帽子屋に出向く前に兵六爺さんから「話しておきたいことがある」と言われていた市は爺さんの家を訪れますが、爺さんもまた九頭竜の手で殺されたあとでした。

この兵六爺さん役のアラカンさんってのは、じつに不思議な人ですな。セリフはほとんど棒読みだし、身体で感情を表すなんて器用なこともできそうにないように思えるんですが、なんかスゴイ存在感があったりする。これが、昭和が始まるか始まらないかって頃から常に主役を張り続けてきた(その数300本!)貫禄ってやつなんでしょうか。

アラカンさんはこの後、同じ喜八監督の『ダイナマイトどんどん』で岡源組の親分を演じてますが、言語障害でマトモなセリフがひと言もないのに、やっぱりその存在感はスゴイものがありました。

そんなスゴイ人をあっさり撃ち殺しちゃうんですから、九頭竜はやっぱり血も涙もない奴です(笑) そのうえ、兵六爺さんの遺骸を抱きかかえ「ヒドイことをしやがる」と嘆く市に向かって、「市さん、どうしたね」なんて素知らぬ顔で尋ねたりして。やっぱり素敵な人です、九頭竜さん(爆) 銃を袂に仕舞うとき、ちょっとモタつくのがご愛嬌ですが(苦笑)

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金の在処はどこじゃいな

烏帽子屋と小仏一家はとうとう全面戦争に突入します。このシーンの殺陣が超リアルで生々しい。双方とも刀をブンブン振り回してるだけで、型も何もあったモンじゃない。剣術の修行なんかしたことない者同士がやりあうんですから、ヤクザの斬り合いなんて実際にはこんなモンだったのでしょうね(ちなみに本作品は、リアルな股旅モノとしてよく名前が挙がる市川崑の『木枯らし紋次郎』や『股旅』より先に作られています)。

兵六爺さんの「話しておきたいことがある」って言葉がどうしても気になる市は、斬り合いには参加せずもう一度爺さんの家に行き、爺さんが彫っていたお地蔵さんの首が抜けることに気づきます。首をはずすと中から袋が。そして、その袋の中には…… 弥助は「金がたまれば寺を建てて、ここで死んだ人々を弔おう」とかうまいこと言って、爺さんにお地蔵さんを彫らせ、その中に金粉に変えた金を隠していたのです。九頭竜に爺さんを殺させたのは、モチロン口封じのためでした。

市は、その場にいた若造たちをお地蔵さんが立ち並ぶ里のハズレへ連れて行き、金粉をぶちまけるように命じます。この若造たちは、ひとり一両で小仏一家に雇われたものの、いざ戦いを目の前にして怖じ気づき、爺さんの家に逃げ込んできてたのでした。コレをぶちまけるとどうなる? と問う若造たちに市はこう答えます。

「今に青鬼も赤鬼も亡者という亡者が集まって、この世ならずの地獄になるぞ。おもしれェだろ」

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悪魔の囁き

その頃、烏帽子屋には金の横流し事件を探る大目付の手を逃れようと三右衛門が転がり込んでいました。金のありかを教えろと迫る三右衛門に、今は知らぬ存ぜずと押し通すべきと取り合わない弥助。焦る三右衛門に九頭竜が悪魔の囁き「ちょっと刀でつついてみなさい。金のありかに走りますよ」 つくづく素敵な奴です、九頭竜って(笑)

二百両の件で頭に来ていた佐々は烏帽子屋の配下の者をバッタバッタと切り捨て、烏帽子屋に乗り込みます。弥助に向かって、自分が公儀隠密であり、お前を捕らえに来たと告げる佐々。それまで常に沈着冷静だった弥助の顔が蒼ざめます。と、そこへ三右衛門が飛び込んできました。佐々を斬るつもりが手元が狂ったのか、はたまた悪魔の囁きに惑わされたのか。刀の切っ先は弥助の肩口をザックリ。信用していた息子に斬られたことで半狂乱になった弥助はヨロヨロと逃げ去ります。

戦いはほぼ終結していて、烏帽子屋も小仏一家も共倒れ状態。手傷を負って烏帽子屋の店先で呻いてる政五郎の鼻先を通り過ぎる弥助と三右衛門。「何があった?」と三右衛門に縋り付く政五郎ですが、三右衛門に額を叩き斬られます。実の親と兄を手に掛けた三右衛門はもう完全に逝っちゃってる

弥助、三右衛門、そして政五郎。誰が青鬼で誰が赤鬼なんでしょうか?

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青鬼、赤鬼、亡者の饗宴

静まりかえった里の中をヨロヨロと進む弥助と三右衛門。その後からは烏帽子屋親子の地獄の沙汰を楽しむように九頭竜が続きます。更にその後からは、地を這いつくばって進む瀕死の政五郎! ここまでコミカルな演技を見せていた政五郎だけに、ザンバラ髪で必死に這い進む姿はかなり効きます。子供が見たらトラウマになること必至

それは弥助も同じで、それまでの紳士然とした旦那さんとは打って変わっての狂乱ぶりで、市たちの手でぶちまけられた金粉の山にヨタヨタと駆け寄ります。風に飛び散ろうとする金粉をかき集める姿はまさに地獄の餓鬼のよう。このあたり、伊福部先生の音楽も気味の悪いお経のような音声が被さって、じつにブキミ

弥助は傍らに誰かがいるのに気づきます。「お前は誰だ? 鬼か? 鬼だな?」 もはや自分の息子さえもわからなくなっていた弥助は、同じように金粉にしがみついていた三右衛門から刀を奪い取り、三右衛門を差し殺します。そして、弥助自身も九頭竜の銃に倒れます。これには佐々もビックリ。事件の証人をなぜ殺したと詰る佐々に九頭竜は答えます。「俺はもう跡部九内じゃねェ。九頭竜だ」

彼もまた金に魅せられ”鬼”となったのでした。九頭竜は佐々に向かって発砲します。1発目は佐々の足元まで這い進んできていた政五郎を捉え、2発目は……

佐々をかばおうと梅乃が、その梅乃を守ろうと余吾が、相次いで飛び出してきて……

九頭竜の凶弾を受けたのは梅乃でした。怒った余吾は九頭竜に斬りかかりますが、アッサリと返り討ちに。しかし、そのために一瞬スキができたのを佐々は見逃さない。佐々の怒りの一撃は九頭竜の身体を引き裂いたのでした。

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ニヤッと笑えば

佐々は梅乃を鍛冶屋の留さんの家に運び込み、留さんに小刀を熱く熱するように命じます。そのとき市は、金粉のぶちまけを手伝わせた若造たちと戦っていました。じつは彼らは九頭竜の手下だったのです。戦いに怯えて尻をまくったのは”フリ”だったようで、これがなかなかけっこう手強い。ようやく若造たちを片づけたモノの、市もまたかなりの傷を負ってました。そんな市の前に佐々が立ちふさがり、「梅乃は死ぬ」と吐き捨てます。

「俺は梅乃にかけた。生きていたら隠密を抜ける。死んだら十両五人扶持。……だが梅乃は死ぬ」

三度目の正直か、市と佐々はついに刀を交えます。市は胴を払われ、佐々は脚をやられます。共に傷を負って、いよいよ最後の一瞬が! ……と思った瞬間、むさくるしい留さんの顔がどアップになり、

「生きてるだよ! 梅乃さんは生きてるだよっ!!」

佐々は梅乃と一緒に生きることを決意し、市は去ります。市を見送りながら、金にならないことをなぜ必至になってやるんだ、と首を傾げる佐々に留さんは答えます。「市さんはああいう人なんだ。なァ、梅乃さん」

黙ってうなずく梅乃……完

と思ったら(笑)

袂に隠しておいた金粉を探ろうとする市。ところが佐々に斬られたとき袋が破れてたんですね。金粉は一粒残らずこぼれ落ちてて、市さん大慌て。自分でぶちまけた金粉の山を必至でまさぐる市の2本の手。いや、腕は4本あります。佐々も金粉をかき集めようとしてたのでした。

「おめェもか」

ニヤッと笑いあって、互いに背を向け歩きだす市と佐々。

そして本当に……完

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DVDの映像特典について

映像特典は、予告を除けば静止画だけというのはちょっと寂しいですが、30年以上も前の作品なのでしかたないか。せめてオーディオ・コメンタリーは付けてほしかったけどなァ。

それと、この『座頭市と用心棒』のサントラは、わたしが知る限りメイン・テーマしかCD化されていないのが残念です。『座頭市音楽旅 其之参』や『Four Beats Artisan / KIHACHI Tracks』に収録されているのはフィルムから直に起こしたモノのようなので、音楽トラックは紛失してしまってるんでしょうか?

これまでの座頭市シリーズの音楽はギターを効果的に使ったボレロ調のモノが主流でしたが、今回は基底に流れるリズムこそボレロっぽいモノの、旋律は特撮作品の南洋ムードめいてます。文中でも触れましたが、梅乃のライト・モチーフにチェンバロを使ったり、お経のようなコーラスを付与したりと、かなりおもしろいんですけどねェ。

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Copyright(C) Miyako Sudou

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